西双版納 4:東南アジア最大の夜市

 

かつてバックパッカーたちの雲南少数民族巡りの拠点でもあった西双版納の景洪市だが、今では市内だけで旅先として十分に完結する観光都市となっている。その目玉の一つが、東南アジア最大と言われるメコン川沿いの夜市だ。旅先の夜は麦ジュースをお供にホテルでダラダラしていたいお父さんたちだって、いざ台湾やタイに赴けば、ナイトマーケットという異質な響きへの期待感から、その重い腰も多少なりとも軽くなるというもの。

  

景洪には、メコン川を挟んだ旧市街、新市街のどちらにも夜市がある。本来なら、夜な夜な「市が立つ」とでも日本語で表現すべきだが、どうやら半恒久的な施設のようなので、そこに市場がある。ということになる。せっかくなので、より規模の大きい新市街の星光夜市を目指してみる。前述の告庄の街をぶらぶら歩いていれば、どうしたってこの夜市に突き当たるので、道に迷う心配をする必要はない。ちなみに星光夜市の中心部はゲートで区切られており、入場にあたっては WeChat で登録をする必要がある。登録の操作自体は難しくはないが、こうしたことからも、これが自然発生的なマーケットではなく、ある種、お仕着せの観光スポットなのだと邪推することもできる。

  

とはいえ、東南アジア最大を冠するだけのことはあって、その規模はじつに壮大。歴史の年輪はなさそうだが、それっぽい建築物やオブジェも随所に配されており、否が応でもお上りさんのテンションはあがる。ちょっとした軽食、割にしっかりしたレストラン、ズンチャ系音楽のかかるミュージック・バー、いかにも観光客向けの土産物と民芸品、などなど、われわれが通常のマーケットに期待する以上のものが、ほぼ全て揃っている。ソムタム (タイの青パパイヤサラダ) をタイ同様に壺で和えてくれる屋台や、タイ風バーベキューの店も数多あるので、やはり「国内なのにタイっぽい」というのが、西双版納の売りなのだろう。

  

中国で古鎮巡りをすれば、どこも灰白色の建物に紅の灯籠のイメージ。そう、われわれ氷河期世代が大陸に憧れるきっかけとなった、チェン・カイコー (陳凱歌) 映画の世界観だ。ひるがえって、ここ西双版納ではそんな中華的陰翳礼讃の美学なぞ、どこ吹く風。そこかしこに極彩色のライト。龍の代役を務めるのは象。ともすると蛇に見えてしまう石像は、蛇ではなくナーガ神だ。タイでも、東北部のイサーン地方の奥に行くほど、つまりラオスに近づくほど、ナーガ信仰が強まるのを体感できるが、ここはその源流の地。メコン川を挟んだその向かいは、ラオスだ。

  

例えば台北のかくかくしかじか歴史ある夜市と比べ、この広場のなんと無国籍で無責任なことか。ここではあまり無粋なことは申さず、ふわふわと重力の無い時間を楽しむのがよい。

   

西双版納 3:理想のもち米マンゴーを求めて

広東のマンゴー系デザートといえば、マンゴープリンや楊枝甘露となるが、タイではマンゴーにもち米とココナツミルクを合わせた「もち米マンゴー」(カオニャオ・マムアン:ข้าวเหนียวมะม่วง:Mango Sticky Rice) が代表的だ。日本のおはぎのように餅として加工してあるならともかく、そのままのもち米をデザートとして出されることに最初は抵抗があったが、慣れてしまえば妙な依存性がある。もっとも近年のバンコクでは、おしゃれなマンゴーデザートの店がそこかしこに増殖し、オジサンだけでは入店しにくかったりもするのだが。

 

(こちらはバンコクの有名店; make me mango)

西双版納というか、タイ族はもち米文化のようでもあるし、せっかくなのでタイ式のもち米マンゴーを食べられる店を探してみることにした。ちなみに、広州のタイ料理店では、いろいろと捻じ曲げられたもち米マンゴーが出てくることが多く、下手をすればもち米ですらなかったりするので、広東でこれを試すのはあまりオススメできない。

 

西双版納の中心地、景洪市の旧市街にオーセンティックな東南アジア料理を揃えるこだわりの強そうな店があったので、ここを訪ねてみる。日本でも最近、とみに人気のガパオライス (ผัดกะเพรา:Phat kaphrao) など、タイ料理を中心にメコン川流域の料理がずらりと並ぶ。オーナーは、この辺りの出身とのこと。オープンエアのカフェだが扇風機も貸してくれるし、なにしろ空が青いので、広州の排ガスまみれ、喫煙者だらけの路上テーブルと比べ、随分気持ちが良い。そして、待望のもち米マンゴーの第一印象は、「なんか色が違う。。。」。あろうことか、ここではココナツミルクの代わりに、ピスタチオのソースがかかっているのだ。メイン顧客の中国人向けのアレンジなのかもしれないが、ピスタチオでは食感がモソモソするし、別に甘い訳でもない。残念ながら、万人にお勧めできるものではなかった。

 

余談ながら、こちらでガパオライスを注文すると、バンコクの有名ガパオ専門店、ペッマーク (Phed Mark) の皿で提供されるので面白い。気分は、すでにしてエカマイのバスターミナルだ。

 

次に訪れたのは、景洪の新市街にあたる告庄の有名デザート店。こちら、チャイナのソーシャルメディアで有名になってしまっているので、残念ながら客層はあまりよろしくない。

 

ここでは、もち米マンゴー以外にも、タイのデザート、ロティ (โรตี:Roti) があったり、タイティーも売られていて、メニューは多岐にわたる。いわゆる食事メニューも充実している。

 

こちらのもち米マンゴーは、ココナツミルクを使用。もち米のカラーリングもじつに四色と、頑張っている。問題は、とても一人では食べきれない量と、完熟ではないマンゴーだ。季節の問題もあるが、マンゴーの酸味が強ければ、やはりもち米マンゴーは楽しめない。試行錯誤の末、これについてはタイで食べた方が断然、安くて美味しい。というあたり前の結論に落ち着いた。

 

西双版納 2:パイナップル炒飯の起源?

広州市内で、広州人とタイ料理店、ベトナム料理店などに赴くとなると、なにかの義務でもあるかのように、パイナップルの実に詰められた炒飯、すなわちパイナップル炒飯 (菠蘿炒飯:ข้าวผัดสับปะรด) を注文することになる。見た目は派手だが、八角などの具材が日本人の好みと合わないことも多く、それほど美味しいものではない。まあ、日本のオジサンだって、広東料理でも、武漢料理でも、上海料理でも、条件反射で紹興酒を頼んでしまう訳で。。。彼らにとっては、エスニック料理の主役 = パイナップル炒飯なんだと理解している。

 

西双版納では、どうしても食べてみたいものがあった。上述のパイナップル炒飯ではなく、もち米を使ったパイナップルご飯 (菠蘿飯) だ。正直、食べてみるまで、味の想像もつかない。タイ族の伝統的な料理であることは確かなようで、栄光ある広州カレー部の学術活動の一環として、無視することのできない一皿となる。初めてのバンコク旅行の際には、マンゴーともち米を合わせただだくさな一皿 (もち米マンゴー:これについては後日、詳述する) を、堂々とデザートとのたまうタイ人の感性にずいぶん驚かされたものだ。しかし、タイ東北部のイサーン料理なんかに慣れてくると (イサーン地方はラオスと国境を接している) 、雲南 – ラオス – タイと繋がる、「もち米のシルクロード」みたいなのに親近感が湧いてくる。味覚を通して、文化人類学的パズルを解くのは、広州カレー部の伝統だ。

 
(こちらは、バンコクの「洗練された」、もち米マンゴーとガイ・ヤーン)


西双版納の州都、景洪市の告庄という一画には、東南アジア最大の夜市があったりして、歩道も整備されており、観光客でもリラックスして街歩きを楽しめる。告庄のホテルの近くで、タイ族料理の店を見つけたので、さっそく上述のパイナップルご飯を試してみることにした。ちなみに市内にはタイ族料理店が無数に存在するので、ソーシャルメディアではなく、嗅覚のみを頼りに店を選ぶのも、また楽しからずや。

 

(西双版納の、パイナップルご飯とタイ族風ローストチキン)

せっかくなので、イサーン料理のガイ・ヤーン (ไก่ย่าง:Grilled Chicken) とほぼ同じ見た目のタイ族風ローストチキン (傣家烤鷄) も注文。チキンを焼けばこの味にしかならないという訳で、スパイスの違い以外は、立派なガイ・ヤーン。タイで食べる方が肉質がよりしっかりしているような気はした。未知のパイナップルご飯は、パイナップル片自身の味により、酸っぱかったり、甘かったりと、なかなか掴みどころがない。とは言え、当地でしか食べられない (かもしれない) というレア度と、かわいらしい見た目もあいまって、一気にファンとなった。

 

(西双版納の夜市でも、パイナップルご飯は売られている)

広州のガパオライス

広州人はタイ料理好きだと思う。「食在広州 (食は広州に在り)」。たしかに広東料理は、数ある中国料理のなかでも、群を抜いて繊細で美味しい。決して上品とは言えない広東語の響きに囲まれて育って、どうしてこれほどまでに繊細な味付けができるのか謎ですらある。とは言え、広東料理なんて、一人で気軽に食べられるものでもないし、毎日食べるようなものでもない。そこで登場するのが、タイやベトナムと言ったエスニック料理だ。広東料理とも歴史や文化の根っこでなにかしら繋がっているだろうし、何よりお手軽で少人数でも楽しめる。広州の繁華街で、タイ料理の人気店はいつでも長蛇の列だ。

 

それほどまでに愛されている広州のタイ料理だが、残念ながら欠点も有る。刺激物に慣れていない広州人の味覚に合わせてあるので、とにかく甘いのだ。辛味と酸味のハーモニーを期待するトムヤムクン (ต้มยำกุ้ง) など、これじゃココナッツミルク・スープだろ!と怒りを覚えるほどに甘い。

 

そして、最近日本で人気赤丸急上昇中のガパオ (กะเพรา) 。挽肉炒めご飯などと勘違いされがちなガパオだが、本来の意味はバジル炒めご飯。実はガパオの生命は、挽肉ではなくホーリーバジルにある。しかし広州ガパオ研究会が総力を結集して、広州各地でフィールドワークを敢行したところ、ホーリーバジルを使った本場モノの発見には至らなかった。まあ仕方ない、ここはバンコクではないのだから。せめてスウィートバジルを使っていれば合格としたいのだが、セロリやら謎の野菜やらを投入して、オリジナリティを発揮したものがやけに多い。店名はあえて伏せるが、写真は広州で遭遇した正体不明の一皿。ここまで来ると、もはや原型を留めていない。